片づける前に、一つだけ確かめることがあります。これを知らずに始めてしまった ご家族が、実際に困っています。
🔴 片づけが、相続の承認になることがある
民法九二一条——相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、 単純承認をしたものとみなされます。
単純承認をすると、相続放棄ができなくなります。借金も含めて全部引き受けた ことになります。
そして相続放棄の期限は三か月(民法九一五条)です。つまり:
⚠️ 借金の有無が分からないうちに価値のあるものを売ったり捨てたりすると、 あとで借金が出てきても放棄できません。
処分にあたりうるもの:家具や家電を売る、貴金属を換金する、車の名義を 変えて乗る、故人の預金から葬儀費用以外を支払う、形見分けで価値のある品を 配る。
処分にあたらないとされるもの:保存行為——傷む食品の廃棄、ゴミの処分、 壊れたものの処分。そして身の回りの品で経済的価値のないもの(衣類、写真、 日用品)。
🔴 判断に迷うものがあるなら、三か月が過ぎるまで手をつけないでください。 そして借金の心配があるなら、最初に弁護士か司法書士に一度相談してください。 相談料より、放棄できなくなる額のほうがほぼ常に大きいです。
急がされても、急がないこと
片づけを急がせる声は三方向から来ます。
大家や管理会社。 賃貸だと「月末までに」と言われます。家賃が発生するのは 事実ですが、三か月の熟慮期間は法律上の権利です。借地借家法で賃借権は 相続され、同居していた方はそのまま住めます。相談して日程を決めてください。 一方的な期限に従う義務はありません。
ほかの親族。 「そのうちやらないと」。悪意はなく、ただ落ち着かないのです。
自分自身。 これがいちばん多いです。何かしていたい。手を動かしたい。 その気持ちは正しいのですが、向ける先を変えられます——写真を箱にまとめる、 書類を一か所に集める。捨てずにできることが沢山あります。
形見分けは四十九日のあと
形見分けは、通例四十九日の忌明けのあとに行います。それより前に配ると 早すぎると見られることがあり、何より上の九二一条の問題に触れます。
二つだけ決めておくと揉めません。
- 誰が何を欲しいかを先に聞く。 配ってから「あれが欲しかった」が出ると、 長く残ります。
- 価値のあるもの(宝石、時計、美術品)は相続財産です。形見分けではなく 遺産分割の対象になります。ここを混ぜると相続の話が壊れます。
捨てる前に取り出すもの
片づけでいちばん後悔されるのは、高価なものではありません。
書類。保険証券、年金手帳、通帳、権利証、確定申告の控え、鍵。相続と手続き で必要になります。一箱にまとめて、一年は置いてください。
手書きのもの。手紙、はがき、メモ、日記、レシピ、家計簿。写真より早く 捨てられ、写真より取り返しがつきません。
写真とフィルム、ビデオテープ。 現像していないフィルム、VHS、8ミリ。 再生する機械がもう無いからといって捨てないでください。デジタル化は後から できます。
🔴 声。留守番電話、ビデオの端、法事の録音、携帯の動画。これがいちばん 取り返しのつかないものです。 そして携帯電話は解約と同時に消えます。 解約する前に、中身を取り出してください。
携帯とパソコン本体も、しばらく残してください。写真、連絡先、サブスクの 契約。ロックが解除できない場合も、急いで処分しないこと。
遺品整理業者を使う場合
自分たちでは無理な量のとき、業者に頼むのは普通の選択です。見分ける点が 四つあります。
許可。 廃棄物を運ぶには一般廃棄物収集運搬業の許可(自治体ごと)、 買い取るには古物商許可(公安委員会)が必要です。両方ない業者が「全部 引き取ります」と言う場合、不法投棄に回ることがあります。
見積り。 必ず書面で、訪問見積りで。電話だけの「一律○万円」は あとで追加されます。二社以上取ってください。
立ち会い。 一部屋でも立ち会ってください。業者が判断できないものを捨てて しまうのは、そこを離れたときです。
貴重品の扱い。 出てきた現金・通帳・貴金属をどう扱うか、作業前に書面で 決めてください。
⚠️ 高額請求と無断処分は、この業界で実際に多い相談です。 消費生活センター (188)に相談できます。
特殊清掃が必要な場合(時間が経ってから発見された場合など)は専門の業者 になり、費用も別です。これは自分たちでやらないでください。
残すものは「量」ではなく「理由」
全部は残せません。そして全部捨てると、あとで何も残っていません。
役に立つ基準は一つ——この物は話を持っているか。父のドライバー一本に 「これで家じゅう直した」が付いていれば残す価値があります。同じドライバーが 三十本あるなら、一本でいいのです。
そして写真を撮って手放すという形があります。物は要らなくても、物が あった記憶は要る。箱三つが写真三十枚になります。
物が消えても残せるもの
追悼ページが向いているのはここです。手放す前に撮った写真、 救い出した声の記録、「これで家じゅう直した」の一行。ご家族の誰でも、 アカウントなしで足していけます。
いちばん早く消えるのは物ではなく話です。物は誰かの家に残ります。 「父は駅まで必ず歩いた」は、書かなければ二世代で消えます。
配偶者を亡くされた方の手続き全体は 配偶者を亡くしてに、 お墓そのものをどうするかはお墓じまいに あります。
追悼のかたち全体は まとめのページに。
根拠:民法第九一五条(熟慮期間)、第九二一条(法定単純承認)、借地借家法。 廃棄物の処理及び清掃に関する法律、古物営業法。具体的な事案は弁護士・司法書士 にご確認ください。



