配偶者を亡くすことは、ほかのどの死とも違います。亡くしたのは一人ではなく、 日々のかたちそのものです。
そして日本の制度は、いちばん動けない二週間に期限を集めてきます。ですから 先に期限の話を、短く。
十四日以内のもの
世帯主変更届——亡くなった方が世帯主だった場合、市区町村に十四日以内。 (残るのが一人だけなら不要です。)
年金の受給停止——厚生年金は十日以内、国民年金は十四日以内。これを 放置すると受け取りすぎになり、あとで返すことになります。
健康保険証の返却——十四日以内。後期高齢者医療も同じです。
介護保険証の返却——十四日以内。
死亡届そのものは七日以内ですが、ほとんどの場合葬儀社が代行します。 上の四つは代行されません。
⚠️ 窓口は一度で済ませてください。 市区町村の「おくやみ窓口」を設けている 自治体が増えています。電話で「死亡に伴う手続きをまとめて」と伝えると、必要な ものを教えてくれます。
請求しなければ出ないもの
🔴 遺族年金は自動的に出ません。 請求が必要です。
- 遺族基礎年金——十八歳到達年度末までの子がいる場合。
- 遺族厚生年金——亡くなった方が会社員・公務員だった場合。
- 寡婦年金/死亡一時金——国民年金の第一号被保険者だった場合。
そして中高齢寡婦加算があります。条件が細かいので、年金事務所で 「遺族年金の請求」と言って一度相談してください。時効は五年です。
埋葬料・葬祭費も請求制です。健康保険から埋葬料(五万円)、国民健康保険 から葬祭費(自治体により三万〜七万円)。こちらは二年で時効になります。
家に住み続けられるか
🔴 これは二〇二〇年からの新しい権利で、知らない方が多いです。
配偶者居住権(民法一〇二八条)——相続で家の所有権がお子さんや他の相続人 に渡っても、配偶者はその家に住み続けられます。改正前は、家を出るか、 家を取るために預金を諦めるかの二択になっていました。
短期の配偶者短期居住権は、相続開始から最低六か月、何もしなくても認め られます。長期のものは遺産分割や遺言で定めます。
賃貸の場合は借地借家法で賃借権が相続されます。同居していれば続けて住め ますが、名義変更の連絡は必要です。放置すると後で面倒になります。
相続の二つの期限
相続放棄は三か月(民法九一五条)。借金のほうが多い可能性があるなら、 この期間に判断します。
🔴 そして三か月より先に落ちる穴があります。 相続財産を処分したり、 故人の預金で支払いをしたりすると単純承認とみなされ(民法九二一条)、 放棄できなくなります。片づけも同じ危険があります—— 故人の持ちものをどうするかに 書きました。
相続税の申告は十か月。かかる方は限られますが、配偶者には 配偶者の税額軽減(一億六千万円または法定相続分まで非課税)があり、 これも申告しなければ適用されません。
手続きが終わったあと
ここからが長い部分です。そして誰も段取りをしてくれません。
ひとりの夕方。 多くの方が一番こたえると言うのは葬儀の日ではなく、 三か月目の平日の夕方です。二人分作っていた食事、点いていないテレビ。
「落ち着きましたか」。 半年を過ぎると周りが聞くのをやめます。やめた ことは、終わったことではありません。
月命日。 毎月あります。背負いすぎないでよいことを 命日に何をするかに書きました。
年末年始。 喪中の年末は長いです。年賀状を出さない、集まりに行かない。 予定を空けすぎないほうが楽な方が多いです。
体に出ること。 眠れない、食べられない、血圧。配偶者を亡くした方の健康 リスクが上がることは広く知られています。一度、かかりつけに行ってください。 弔いの話をしに行くのでなく、体を見てもらいに。
話し相手のこと
家族に話せないことがあります。子に弱音を言いたくない、同じものを失っていない 友人には分からない。
電話相談があります。よりそいホットライン(0120-279-338、二十四時間、 無料)。「死にたい」と思っていなくても、かけてよい窓口です。
そして同じ立場の方の集まり——自治体や社会福祉協議会、遺族会。 同じ月命日を持っている人に話すのは、別のことです。
二人分の記憶を、一人で持たないこと
四十年のことを覚えているのは、もうあなた一人です。これは重いことで、そして 書き留められます。
追悼ページにできることは、それを一人で持たなくて済むように することです。写真、声、短い文章。お子さんやお孫さんが足していける形。 二人で行った場所、繰り返していた一言、笑い方。
いちばん早く消えるのは写真ではなく話です。写真は箱に残ります。 「お父さんは駅まで必ず歩いた」は、書かなければ消えます。
そして書くことそのものが、効きます。何人もの方が、思い出を文字にしているとき だけ少し楽だったと言います。急がず、ひとつずつでかまいません。
追悼のかたち全体は まとめのページに。
期限と金額は二〇二六年十月時点のものです。根拠:民法第九一五条・第九二一条・ 第一〇二八条、国民年金法、健康保険法。ご自身の事案は年金事務所、市区町村の 窓口、または専門家にご確認ください。



