弔辞は三分、長くて四分です。日本語なら六百字から八百字ほどになります。構成は 四つ。はっきりした一つの思い出で始め、二つか三つの人柄を事実で示し、残して いったものを言い、短い一文で結びます。前日に書くなら一時間で足ります。二十分 で思いつくままに書き出し、十分で三つ選び、二十分で書き、十分声に出して読み ます。
その手順の前に、日本語に固有の二つの決まりを先に書きます。これを知らずに 書くと、よくできた文章でも式場で止まります。
まず、二つの決まり
🔴 弔辞は故人に向けて書きます。 会場に向かって故人を紹介するのでは なく、故人に話しかけます。「〇〇さん」と呼びかけて始め、最後も故人への言葉で 閉じます。欧米の追悼演説をそのまま訳すと、ここがずれます。会場に向かって 「彼はこういう人でした」と語る文章は、日本の式場では奇妙に響きます。
🔴 忌み言葉を使いません。 不幸が重なることを連想させる言葉を避ける、 という決まりです。具体的には次のようなものです。
- 重ね言葉 — 「重ね重ね」「たびたび」「くれぐれも」「ますます」「いよいよ」
- 繰り返しを連想させる語 — 「再び」「続く」「追って」「返す」
- 生死の直接表現 — 「死ぬ」「死亡」。亡くなる、ご逝去を使います
- 浮かばれない表現 — 「浮かばれない」「迷う」
これは迷信としてではなく、ご遺族がその場で気づく種類の言葉として避け られています。書き終えたら、この四行を手元に置いてもう一度読んでください。
なお、宗派によって避ける表現は変わります。仏式では「ご冥福をお祈りします」が 一般的ですが、浄土真宗では使いません(亡くなった方はすでに浄土に往生して いると考えるため)。神式・キリスト教式でも「ご冥福」は使いません。わからない ときは「心よりお悔やみ申し上げます」「安らかなお眠りをお祈りいたします」と すれば、どの場でも通ります。
三分、十分ではなく
喪のなかにある会場はすぐに離れます。同じ日に何人も述べることが多いです。 そして何より、短い文章は選ぶことを強います。それが文章を強くします。記憶に 残る弔辞は、すべてを言うことを諦めたものです。
一時間の手順
弔辞はほとんどの場合、悪い条件で書かれます。連絡の合間、眠れないまま、式の 数時間前に。
1. 二十分、思いつくまま書き出す。 浮かぶものすべてを、順序も文章も気に せずに。思い出、その方の言葉、匂い、言い合い、習慣。何も判断しないでください。
2. 十分で三つ選ぶ。 喉が詰まるものに印をつけてください。信頼できる基準は それだけです。
3. 二十分で書く。 短い文で。震える声で、声に出して読むことになります。
4. 十分、声に出して読む。 嘘に聞こえるところ、息が続かないところ、そして 実際に何分かかるかがわかります。
持ちこたえる構成
父・母・祖母・兄弟姉妹・友人という個別の場合には、それぞれのページと文例が あります。 父、 母、 祖母、 兄弟姉妹、 友人・同僚です。
| 部分 | 入れるもの | 長さ |
|---|---|---|
| 呼びかけ | 故人の名を呼び、はっきりした一場面 | 30秒 |
| どんな方だったか | 人柄を二つか三つ、事実で | 1分30秒 |
| 残していったもの | 自分を通して続いているもの | 45秒 |
| 結び | 故人への短い一文 | 15秒 |
「本日はご多用のなか」から始めないでください。会場は知っています。名を呼んで、 場面にすぐ入ってください。
全文の例
教師だった伯母に、甥が述べた弔辞です。声に出して三分弱。各段落が表の一行に 対応しています。
「明子おばさん、最後にお会いしたのは七月、ベランダでした。双眼鏡を私に 渡して、『見て、シジュウカラの夫婦が帰ってきた』とおっしゃいました。八十三 歳で、もう足元も危なかったのに、二羽の鳥の暮らしを現場監督のような真剣さで 追っていらした。
それが明子おばさんでした。止まることのない好奇心です。三十八年間教壇に 立たれて、たぶん最後まで教師をやめていなかったのだと思います。質問をして、 答えを本当に聞いてくださいました。私が十二歳のとき、何になりたいかと聞かれ て「宇宙飛行士」と答えました。笑わずに聞いてくださった。三週間後、惑星の本 が郵便で届きました。「はじめの一歩に」という短い手紙と一緒に。
頑固でもありました。車の鍵を預かろうとした者は覚えています。それに、不意に 出る乾いたおかしみがありました。三月の病室で、看護師さんにどこか痛みますか と尋ねられて、「見栄だけ」とお答えになりました。
お子さんはいらっしゃいませんでした。けれどここには、甥も姪も昔の生徒も、 何かを教わったと言える者が大勢います。私は見ることを教わりました。巣の前で、 雲の前で、人の前で立ち止まって、そこで何が起きているのかを考えること。 宇宙飛行士にはなりませんでした。でもまだ、空を見上げています。
明子おばさん、シジュウカラは私が見ておきます。」
当日
- 大きな字で印刷してください。 16ポイント以上。疲れた目は詰まった文字を 読めません。
- ページに番号を打ち、留めないでください。
- 息継ぎに線を入れてください。 必ず速くなります。
- 紙は台に置いてください。 手は震えますし、紙はそれを増幅します。
- 奉書紙に清書するのが正式ですが、必須ではありません。白い封筒に入れた 便箋でも、読み終えたあと祭壇に供えることができます。迷ったら葬儀社に 聞いてください。
読み終えられなかったら、誰かが続けます。その方に前もって伝え、写しを渡して おいてください。
読めそうにないとき
述べることを辞退するのは落ち度ではありません。三つの方法があり、どれも 受け入れられています。
- 文章を誰かに託す。 誰のものかを言って読んでもらいます。
- 既にある文章を選ぶ。 詩、お経、その方が好きだった一節。 選ぶこと自体がもう追悼です。
- 何も言わない。 棺を担ぐ、扉を押さえる、他の家の子どもを見る。それも その場にいる形です。
十年後、誰が述べたかを覚えている人はいません。述べた本人だけが、その場にいた ことを覚えています。



